第58回日本心臓病学会学術集会の特別企画として「医療事故調査制度の行方」について討論を行いました。民主党からは、梅村聡参議院議員が出席しました。
政権交代前、自公政府は「医療安全調査委員会制度」の法案を作成しました。医療事故に警察が関わってくる事例が増加した結果、勤務医や重責診療科の医師の医療安全に対する負担が増加し、勤務医が辞めてしまったり、医療機関が周産期医療を止めてしまったりするケースが多数出ました。警察は本来犯罪捜査が役割で医療に関する専門的知識は欠いています。そのため、医療現場の実情からは大きく隔たった判断がなされてしまった事案もありました。
そこで、医療や法律の専門家、一般市民の代表者などで構成される医療事故を調査・検証する中立的第三者委員会を作り、解剖などの検証方法を用いて医療事故の原因究明を行う制度の確立が、医療側からも患者側からも強く要望されていました。ところが、細かな問題において医療界でコンセンサスが得られず、法案は提出に至らないまま、政権交代となりました。
民主党は対案の骨格を示しています。その骨子は、基本的には我々の法案と同様に、医療事故の科学的原因究明を目的とした調査委員会制度の創設の提案です。また、民主党案では、院内事故調査委員会の機能を増強することになっていますが、その点には賛成です。でも、幾つかの主要論点で疑問があります。
以下、専門的になりますが、挙げておきますと、①民主党案では医師法21条を削除するとしていますが、それでは、不審死であっても、医療機関が医療過誤を疑われる可能性を恐れれば届出を行わないことになり、多くの犯罪死を見逃してしまう虞があります。②民主党案では「医師は、診療中の患者が死亡した場合、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案した場合において、死亡診断書、死体検案書又は死産証書を交付できないときは、死因究明法における非自然死体として24時間以内に所轄警察署に届けなければならない。」としています。しかし、その「死亡診断書、死体検案書又は死産証書を交付できないとき」の具体的クライテリアが全く不明です。この点は、まさに、今までの医療事故調査制度の議論の原点であった医師法21条にいう「異状があると認めたとき」の解釈の不明瞭さを、そのまま移動しただけのことで、民主党案では、診療関連死の議論の振出に戻ってしまいます。③民主党案では、医療事故の原因究明手続きは、医療機関や医療従事者に対する刑事司法手続きと完全に切り離されています。したがって、いくら医療専門家による医療事故の原因究明が行われたとしても、警察・検察は、現在同様、自己の自由な裁量で、医療機関や医療従事者に対する刑事捜査が可能となります。これでは、医療安全に関する重責診療科の勤務医の厳しい環境は改善されません。
医療事故調査制度に関する議論は、政権交代後は、民主党内でも進んでいないようで、法案提出の時期は未定となっています。患者さんのためにも、医療界のためにも、早期の制度創設を強く願います。
