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健康科学コラム

No.37:認知症研究の進歩

突出した高齢化社会を迎えている日本において、認知症は、最も社会的負荷の大きい疾患であると推計されています。認知症の患者数は増加を続けていて、65歳以上の人口の推定罹患率は現在の約18%から、2040年には22.5%程度まで上昇すると考えられています。

これまでの研究により、認知症の約半数を占めるアルツハイマー型では、認知機能が正常な若年・中年期のうちから、15年~20年という長期間にわたってアミロイドβとタウ蛋白という2種類の異常物質が脳内に蓄積していくことが明らかになりました。これらがその後神経細胞を障害していき、認知症予備軍と呼ばれる軽度認知障害(MCI)の状態となる頃には、脳に構造変化を来してしまい、更に認知機能の障害が進んでいくというメカニズムです。認知症の他の病型においても、アミロイドβとタウ蛋白は関与していると考えられています。

昨年、日本のエーザイ株式会社がアメリカの「バイオジェン」社と共同で開発したアミロイドβに対する新しい抗体医薬であるレカネマブ(商品名:レケンビ)は、脳内にアミロイドβが病的に蓄積したアルツハイマー病(AD)によるMCI及び軽度ADを対象とした臨床試験において、疾患の悪化を27%抑制しました。この薬剤は認知症に対して実効的な介入が可能となった点で画期的であり、世界的にも高く評価されていますが、あくまでも認知症の進行の抑制であり、改善させるわけではありません。他方の異常物質であるタウ蛋白の方が、より病態に影響していることも分かってきており、今後の更なる研究開発が必要です。

日本でも8月下旬に、厚生労働省がレカネマブを承認しました。11月末までに保険適用される見込みで、米国では患者1人当たり年間2万6500ドルとなっている薬価が国内でどのように算定されるかも、注目されます。