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健康科学コラム

No.22:がんに対する新療法

がん治療の薬物療法の主体は細胞毒を投与する抗がん剤治療ですが、近年、がん免疫を賦活化する新たなメカニズムを持った治療技術が次々に開発されてきました。ノーベル賞を受賞された京大の本庶佑教授が開発したのは、「免疫チェックポイント阻害剤」という新薬です。ヒトのTリンパ球は外来生物や腫瘍細胞を非自己とみなして、各種活性化物質を放出して攻撃する機能を持ちますが、Tリンパ球にはPD-1という受容体があり、ここに特異的に結合する物質があると、その攻撃機能が弱まります。もともとは、血管内皮細胞などの自己の正常な細胞を、Tリンパ球が誤って攻撃しないようにするためのメカニズムなのです。がん細胞の一部には、このPD-1に結合する物質を細胞表面に持っていて、Tリンパ球の攻撃から逃れ、増殖する細胞があります。本庶教授のグループは、このPD-1に蓋をしてしまい、がん細胞の表面物質がPD-1に結合出来ないようにして、Tリンパ球のがん細胞にする攻撃性を発揮させる薬を開発しました。他の治療法が効かなかった悪性黒色腫や肺がんの3割程度の患者さんに効果があることが実証されています。

一方、これから市販されてくるCAR-T療法という新技術は、逆に、がん細胞固有の表面物質を標的として、Tリンパ球の攻撃性を増強する治療法です。がん細胞は、正常細胞に無い各種の固有の表面物質を有することが多く、Tリンパ球に遺伝子操作して、これらに特異的に反応する受容体を発現させることで、Tリンパ球が、がん細胞を特異的に攻撃するようにします。悪性リンパ腫や白血病等の血液疾患で先行して実用化され、良好な結果が得られていますが、他の各種がんに対する適用も研究開発が進められています。

その他、がん細胞の遺伝子変異を網羅的に調べ、各個別の患者に最適な治療法を選択するPrecision Medicineの考え方に基づき、研究開発が進んできています。

問題は、これらの新技術の開発には莫大な費用が投じられているため、値段が格段に高くなることです。財源の厳しい日本の公的保険制度の中で、どのように対応していくべきか議論されるようになっています。自分や家族が病院にかかる時には有り難い健康保険制度ですが、普段、天引きされる保険料は高く感じるものです。皆様は、どう感じますか?