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健康科学コラム

No.25:新型コロナウイルス感染症①

【味覚・嗅覚の異常について】

米国医師会雑誌に発表された論文では、新型コロナウイルス感染症患者の64.4%(130/202)が、嗅覚・味覚の症状があったと報告しています。嗅覚や味覚の異常がCOVID-19に現れることは、阪神の藤浪選手などの報道で知られていましたが、ここまで高いとは驚きでした。初発症状が嗅覚・味覚異常の感染者(11.9%)や、症状が嗅覚・味覚異常だけの感染者(3.0%)もいますので、要注意です。女性(72.4%)は、男性(55.7%)よりも、嗅覚・味覚異常の症状が有意に多かったとされています。皆様(特に男性)も、食事の際は、味や香りを、良く注意するよう心掛けて下さい。

 

【病態について】

COVID-19の病態については、かなり明らかになってきています。感染者の中で、高血圧の基礎疾患のある人が最も多く患者の30-60%くらいを占めており、その25-30%程度は重症化し、死亡率も10-20%と報告されています。高血圧で元々血管に傷害があったところ、COVID-19の感染のために血液が固まり易くなり、全身的に血栓が生じて多臓器不全に至る報告が多いです。虚血性心疾患の人もリスクが高いです。

一般には、若い人は罹患しにくく重症化しにくいのですが、肥満の方は、そうとは言えません。米国の研究では、入院患者の中では年齢とBMIは逆相関していました。すなわち、若年者の入院患者は、高齢の入院患者よりも肥満である傾向が認められました。この傾向に性差はありません。ただ米国のことですから、日本より肥満の強い人達での話ですが…(この研究での患者のBMIの中央値は29.3)。

 

【布マスクの効果について】

大変評判の悪かった“アベノマスク”、すなわち布製マスクですが、実は口からの飛沫を防ぐには十分な効果があることが分かってきました。誰もが世界最高峰と認める医学雑誌に、わずかに湿った布製マスクで発語時の唾液飛沫をほぼ完全に抑えることが出来るという実験結果が掲載されました。世界の医療実務に影響力を持つ米国疾病予防センター(CDC)も、マスク(不織物はもちろん、布でも)は、人にウイルスを移さない目的には推奨すると、見解を改めました。もちろん、不織繊維のマスクでも、発語時のエアロゾル状の唾液散布を完全には抑制出来ないとは思いますが、エアロゾルは、換気が良ければ、速やかに消失します。マスクをして、換気を十分に行えば、人と人との会話を過度に控える必要はないと思いますので、外出の際は必ず着用をしてください。

 

【治療薬について】

 5月7日にギリヤド・サイエンス社のレムデシビルという治療薬が承認され、重症例に使われる見込みとなりました。COVID-19に対する初めての承認を得た治療薬です。まだ、米国での治験データが論文になっていないため、正確には分かりませが、米国アレルギー感染症研究所の発表によれば、回復までの期間を15日から11日へと4日程短くする効果が認められたとされています。とにかく、治療薬が出来たことは大変喜ぶべきことですが、この薬は中国での治験では効果が認められておらず、また米国での治験でも生存率を改善する効果は認められませんでした。限られた効果だと言えます。

日本期待のアビガンは、5月中には中間評価になると思います。成績が明らかに良ければ、この段階で承認となると思います。もう少し待つ必要があります。

 

【高濃度飲料用アルコールの使用について】

不足する消毒液の代用として、アルコール度数の高いお酒を使用することを厚労省が容認しました。高アルコールのスピリッツは消毒用に作られたわけではないので、消毒薬と全く同様の効果が得られるかは分かりませんが、科学的には肯定できると思います。70%~83%というとスピリッツとしても非常に高い濃度なので、なかなか見付けるのは難しいと思いますが、まだポーランドの「スピリタス」という96%のスピリッツは、まだ市場で見かけます。スピリタス:精製水=4:1程度で薄めて使えばいいと思いますが、高濃度アルコールは揮発性が高く、引火し易いので気を付けて下さい。日本の酒メーカーの中にも消毒用焼酎を作る動きがありますので、普及を期待したいと思います。

 

【本当の感染者数について】

慶應病院で、外来に訪れる患者さんにPCR検査を行ってスクリーニングしたところ、6%(4/67)が陽性でした。またニューヨークでは、COVID-19のウイルスに対する抗体検査を行ったところ、15%が陽性だったとも報告されています。PCR検査は、現在の感染状況を反映し、抗体検査は感染の既往を反映します。日本でも、ようやく抗体検査のキットが出来ました。実は東京都医師会の理事たち18人が試しに抗体を図ってみたところ、3人(17%)が陽性だったそうです。これらの結果からも、東京でも、実は相当の不顕性感染が起こっている可能性が高いです。

ただ、これは全く悲観すべき話なのではありません。むしろ、喜ぶべき話だと思っています。この感染症は、全体の6割の人が免疫を持つまで流行を繰り返します。ワクチンの開発には時間がかかるので、少しずつでも、感染して抗体を持つ人の割合を増やす必要があるのです。その意味では、ソーシャルディスタンスは医療を崩壊させないためには必要ですが、その間は感染する人を減らしてしまうので、集団免疫を形成するには不都合です。一定の経済活動を再開し、少しずつ皆で順番に感染して、皆が抗体を持つ状況を作っていく必要があります。仮に、現在の東京で本当に2割近くに免疫があるとすれば、より早期に終息が可能となるシナリオを描けます。もちろん、治療薬が出来て軽症で治るようになって、多くの人が感染を恐れる必要が無くなれば、医療の負担は軽くなり、集団免疫も進み、状況は大きく変わります。