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健康科学コラム

No.26:新型コロナウイルス感染症②

1.「人流」と「接触頻度」って何?

緊急事態宣言の期間中、政府の専門家会議は、しばしば「人流」と「接触頻度」の積が、70%,出来れば80%減らして欲しいと言ってきました。そのため、マスコミでは、連日のように、渋谷駅や品川駅前の人出が何%だったと報道していました。実はこの「人流」という言葉は誤解を招き易く、感染の可能性のある人の数のことを指しています。すなわち、“Stay at home”の号令で、家に留まる人は感染の可能性が無くなると考え、家から外に出て行っている人を「感染の可能性のある人」と考えています。ですので屋内で人と一緒に話しをしている人は、渋谷駅や品川駅の駅前に居なくても、「人流」に含まれている概念なのです。そして、その外に出ている人同士の接触の頻度が、「人流」と「接触頻度」の積であり、それが、感染の尺度になるということです。新型コロナウイルス感染症の基本再生産数(防御策を採らない場合に1人の感染者が何人に感染させるか)は2.5位と考えられていますで、これを1以下にすれば、感染は収束します。そのためには、「人流」と「接触頻度」の積を60%減らす必要があります。例えば、感染の可能性のある状況(「人流」)を2割程度少なくし、職場環境での感染可能性(「接触頻度」)を半分に減らすようにすれば、感染は抑制できるのです。この1年間は、時差通勤や夜の外での長酒の節制、職場でのマスク着用と換気、閉鎖スペース(エレベーターなど)での会話自粛などを心掛けて下さい。

 

2.集団免疫に向けて

 現在、米中を中心に、急速な勢いでワクチンの研究開発が進められていますが、有効なワクチンが、何時出来るかは、まだ明かではありません。また、仮にワクチンが出来ても、ウイルスは頻繁に変異するため、効果の持続性も問題になります。結局は、少しずつ集団免疫を高めていくことも必要になります。日本で新型コロナウイルスへの感染の既往のある人の数は、報告されているよりずっと多いと考えられています。慶應病院で行った来院患者に対するPCR検査や、神戸中央市民病院や新宿区のクリニックで行った市民に対する抗体検査では、3~5%の人が陽性でした。でも、基本再生産数2.5のウイルスの流行が収束するには、計算上は6割の人が抵抗力を持つ必要があるので、まだまだ遠い数ということになります。確かに、新型コロナウイルスに対するヒトの抵抗力は、感染したことによって得られる特異的な抗体産生が最も強い免疫になりますが、非感染者であっても、単球やNK細胞と呼ばれる細胞による非特異的な抵抗力や、他の風邪コロナウイルスに対する免疫による交差的抵抗力があります。前者についてはBCG接種などで強化されると推察されており、また、後者は、半分位の人で、他のコロナウイルスに対する免疫細胞が、新型コロナウイルスに対しても反応することが明らかになっています。私は、アジア人が新型コロナウイルスに対して欧米人と比較して強い抵抗力を持っているのは、この2つのメカニズムが有利に働いているのではないか、と考えています。こうした非特異的な免疫力と、人の注意による感染抑制を組み合わせれば、集団免疫を得るまでに実際に感染して特異的抗体免疫を持つ必要のある人の割合は、ずっと少なくてよいことになります。勿論、感染しても症状を軽症で抑えることが可能な新薬の開発が進めば、より早期に感染を収束させることが出来ます。