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健康科学コラム

No.30:国産ワクチン

COVID-19ワクチンは、既に、米国、英国、ドイツ、中国、ロシア、インドにおいて開発され、実用化されていますが、国産ワクチンは、未だ探索的臨床試験の段階にあり、実用化の具体的な時期は明らかになっていません。このパンデミックを通じて、ワクチンを開発できる技術力を国内に持つことは、国民の健康を守るとともに、外交や安全保障の観点からも極めて重要であることが明かになりました。

国産ワクチン開発が遅れてきた原因としては、過去のワクチンによる集団的有害事象事件、リスクを好まない日本人の国民性、不十分だった研究開発投資、ベンチャー育成や産学連携の遅れ、科学技術分野での国際連携の遅れ、ワクチンの買い上げを含めた政府の積極的関与の欠如、など多数の構造的問題があります。ただ、病原体を増殖して弱毒化したり、病原体タンパクを精製して製造していた今までのワクチン技術と異なり、COVID-19ワクチンで優位性の明らかになったmRNAワクチンや組換えタンパク・ワクチンは、病原体の遺伝子情報を利用するだけであるため短期的に開発でき、製造スケールの拡大も容易です。また、これらの遺伝子技術は遺伝子治療やバイオ医薬品などのワクチン以外の治療技術にも応用可能であるため、投資効率面でも優れた技術と考えられます。中東呼吸器症候群やエボラ出血熱など、新興感染症の流行は世界的に見れば頻繁に勃発しています。国産ワクチンの開発についても、世界的な視点で対象感染症を選択して、まずは実薬開発の経験を蓄積すべきと考えられます。

一方で、COVID-19ワクチンに関しては、接種者において時間経過と共に抗体価の減衰が確認されており、特に高齢層において低下が明らかです。ワクチン接種による免疫記憶の持続の程度によっては、今後、再度の接種や定期的な接種が必要となり得ます。また、既に現行ワクチンの効果の低減が懸念される変異株が出現しており、変異株に対応するため、新たに開発されたワクチンの接種を追加することが必要な事態も考えられます。国産COVID-19ワクチンの開発は、世界的に見て大きく遅れてはいますが、このようなワクチン免疫の減衰や変異株への対応を想定すれば、たとえ実用化が令和4年度以後になっても、国産COVID-19ワクチンが実際に活用される可能性は低いとは言えません。ただ、今後の国産COVID-19ワクチンの開発については、既に一度mRNAワクチン接種を行った人に対する追加的接種となる場合が多いと考えられ、今までのような、発症予防効果を検証する無作為化比較試験の実施が難しくなります。この点では、既に開発された各種COVID-19ワクチンの臨床試験の結果から、ワクチンによって誘導される中和抗体価と臨床試験での発症予防効果に強い相関関係が認められています。これらの知見に基づいて、国産COVID-19については、臨床試験において安全性と免疫誘導性を確認して承認し、有効性については実地臨床で確認していく、という方法が考えられています。