健康科学コラム

No.32:経口薬

2021年夏の第5波で日本でも起こったように、COVID-19によって患者さんが急増すると、医療の受け入れが逼迫し、多くの患者さんに病院外の自宅や宿泊施設で過ごしてもらうことが必要になってきます。その際に、経口で服用できる医薬品が強く求められてきました。インフルエンザなどの他のウイルス疾患に対する多くの医薬品がCOVID-19に試されてきましたが、明らかな効果を発揮した医薬品はありませんでした。マスコミで宣伝されたイベルメクチンを個人的に入手してCOVID-19の予防や治療に使った人が多かったようで、アメリカではイベルメクチンの副作用の相談が大きく増えていました。2021年秋になり、ようやく2つの経口薬の開発成功が発表されました。メルク社が開発したモルヌピラビルは、元々インフルエンザ薬として開発されてきた薬ですが、重症化のリスクのある軽症~中等症の外来患者を対象とした第3相試験で、入院または死亡のリスクを約50%に低下させました。29日目までにモルヌピラビル群では死亡はありませんでしたが、プラセボ群では8人が死亡しました。また、ファイザー社が開発したパクスロビドは、ウイルスの複製・増殖に必須であるウイルスのメイン・プロテアーゼを阻害する薬ですが、発症後3日以内の重症化リスクのある外来患者を対象とした第3相試験で、入院と死亡のリスクを89%低下させました。発症後5日以内の服用でも85%の効果でした。28日目までにパクソロビド群では死亡はありませんでしたが、プラセボ群では10人が死亡しました。ただ、パクソロビドは薬の肝臓における分解を阻害して薬効成分の体内濃度を高く維持する成分が含まれていて、一部の降圧剤など使っている人には薦められない場合があります。COVID-19の致死率は季節性インフルエンザの約5倍と計算されていて、ワクチン接種とこれら2つの経口薬が普及すれば、COVID-19はインフルエンザと同程度の重症度の疾患になると考えられます。