No.42:がんの予防③・飲酒
前回は、喫煙と受動喫煙が、多くのがんやその他の疾患のリスクとなることを書きました。
ただ、喫煙はしないが、酒は飲むという方は、私を含めて多いと思います。
残念ながら、飲酒によりがん全体のリスクが上がることは、日本人においても確実と評価されています。
飲酒によって肝臓がん、大腸がん、食道がん、頭頚部のがんのリスクが上がることは確実で、男性の胃がんと閉経前女性の乳がんのリスクが上がることもほぼ確実です。
日本人男性を対象とした研究から、1日あたりの平均アルコール摂取量が、純エタノール量換算で23g未満の人に比べ、46g以上の場合で40%程度、69g以上で60%程度、がんになるリスクが高くなることが分かりました。
そのため、国立がん研究センターでは、1日あたりの飲酒を純エタノール量換算で23g程度(日本酒1合、ビール大瓶1本、焼酎2/3合、ウイスキーをダブルで1杯、ワインをグラス2杯程度)にとどめることを推奨しています。
日本人男性のがんの13%程度が、この2倍以上の飲酒習慣によりもたらされているものと推計されています。
一方で、適量のお酒は健康に役立つことも知られており、特に循環器疾患を予防するという科学的根拠は繰り返し確認されています。
この効果は、主として、飲酒が善玉コルステロールを増やし、血液凝固系を抑制することによると考えられています。
したがって、飲酒の健康への影響を考える場合には、総合的な指標である死亡との関連について調べることも重要です。
日本人について調べた研究では、1日にエタノール換算で男性で46 g未満、女性で23 g未満の飲酒であれば、飲まない人よりも死亡のリスクが下がり、男性では92 g以上、女性では46 g以上の最も高い群でも、飲まない人よりもリスクは上がっていませんでした。
がんでの死亡については、男性では、1日にエタノール換算で男性で46 g未満であれば飲まない人よりリスクは下がりましたが、92 g以上になるとリスクの上昇が認められました。
女性では、がんでの死亡に関して飲酒による影響は認められませんでした。
お酒は節度を持つこと(男性ではエタノール換算で1日46 g、女性で23 gまでに抑える)が健康にとって好ましいことは事実です。
ただ、がんのリスクが高まると言っても2倍未満であり、喫煙のような数十倍のリスクとは違います。
また、アルコールの分解課程で働くアルデヒド脱水素酵素2の働きが遺伝的に弱い人(いわゆるお酒に弱い人)が大量に飲酒をすると、お酒に強い人に比べてリスクが高いことも知られています。
一方、お酒が健康に良い面を持つのも事実です。
お酒を習慣的に飲む人は、是非、これらの科学的根拠を理解した上で、自らの飲酒量を決めて頂きたいと思います。