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健康科学コラム

No.9:「日常生活と放射線」

福島第一原発の事故で、埼玉県でも放射性物質による健康被害に関心が高まっています。1979年のスリーマイル島の事故では、健康被害は見つかっていませんが、1986年のチェルノブイリの事故では、事件後1年間に28人が被爆により死亡しました。今回の事故は、これらの中間のレベルであり、環境中に放出された放射性物質の量は、チェエルノブイリの場合の100分の1程度と考えられています。   原子炉の事故によって発生する可能性がある放射性物質への暴露には、一般に、①放射線源近くでの直接の暴露、②環境中の放射性物質が衣服や皮膚に付着することによる外部汚染、③環境中の放射性物質を食べたり飲んだりすることによる内部汚染、の三つに分類されます。①の放射線源近くでの暴露が1000ミリシーベルトを超える程度になると、事故現場で働く作業員の皆様に急性の骨髄や消化管の障害を引き起こしますが、過去の原発事故で、このような急性放射性障害が一般の皆様に発生したことはありません。②の外部被爆と③の内部被爆は、100~1000ミリシーベルトに至ると、長期的に、癌のリスクが高まるなどの健康への影響の可能性があると考えられています。   埼玉県では、さいたま市内で、1時間毎に放射線量を測定していますが、最大値は3月15日11時に記録された毎時1.222マイクロシーベルトという値です。ただし、この値が続くわけではなく、その2時間前や2時間後では、10分の1程度の値となっています。仮にこの毎時1.222マイクロシーベルトという値が1年間続いたとしても、10.7ミリシーベルトにしかならず、これは年に2回CTスキャンを受けた場合の被爆量よりずっと小さい値です。人間は、宇宙や大地その他の自然環境から、世界平均で年間2.4ミリシーベルトの放射線を受けています。その4倍くらいになる地域もありますが、健康への影響は認められていません。   原爆とチェルノブイリ事故による被害調査から、長期的に小児で甲状腺癌の危険性が高まることが知られています。今回の場合、既に食物や牛乳などの放射性物質を測定し、高ければ出荷停止などの措置が採られていますので、現在のところ、健康への危険性があるとは考えられていません。なお、調査結果からは、甲状腺癌の危険性は40歳以上では高まらないと考えられ、また、予防のためのヨウ素剤の服用は、暴露の直後でないと効果がありませんし、副作用も多いので、現段階では不要と考えられます。
放射量図
※1,000マイクロシーベルト=1ミリシーベルト