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健康科学コラム

No.18:受動喫煙対策について

喫煙が多種のがんや多様な循環器・呼吸器疾患等、健康に対する大きなリスクであることは言うまでもありませんが、現在では、受動喫煙による健康被害も科学的に証明されています。受動喫煙とは、喫煙者の口から吐き出された呼出煙と点火部から立ち上る副流煙を非喫煙者が吸い込むことをいいますが、副流煙には、喫煙者が吸い込む主流煙よりも多くの有害物質が含まれている場合があると指摘されています。WHOの専門機関である国際がん研究機関の評価では、受動喫煙は、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中等の原因であると証明され、また、鼻腔・副鼻腔がん、乳がん、呼吸機能低下、慢性閉塞性肺疾患等の原因であると示唆されるとしています。日本人に関する統計データの解析を行ってきた国立がん研究センターも、2016年8月、これまで「ほぼ確実」としてきた受動喫煙の肺がん発がん性リスク評価を「確実」に引き上げました。

 2002年に健康増進法により、職場や多数者が利用する施設の管理者に対して受動喫煙防止措置が努力義務化されました。しかし、平成27年の調査で、過去1カ月間で非喫煙者の41.4%が飲食店で、30.9%が職場で受動喫煙にさらされる機会があったと回答するなど、その対策は十分ではありません。WHOと国際オリンピック委員会は、「タバコの無いオリンピック」のための合意を発表しており、少なくとも2008年以降全ての開催国で、罰則を伴う受動喫煙防止対策が講じられています。これによれば、日本でも東京オリンピックまでに、100%の受動喫煙防止の方針の徹底、罰則を伴う法定化が必要になります。

 昨年10月、厚生労働省は受動喫煙防止対策強化のたたき台を発表しました。この案では、多数の人が利用し、他施設を利用することが用意ではない官公庁等の施設については建物内禁煙とし、医療機関等は更に厳しい敷地内禁煙とする一方で、利用者側にある程度他の施設を選択する機会がある飲食店等については原則建物内禁煙としたうえで、喫煙室の設置を認めています。違反者には罰則を適用する方針です。

受動喫煙防止対策に関する 各国調査の結果

 最も問題となるのは喫煙目的の顧客で成り立っている飲食店の経営で、小規模の事業主では有効な分煙機器導入のための投資が困難です。東京都議会では条例化が検討されましたが、県境に近い地域の飲食店経営の問題で結論が得られず、国による立法に委ねられることになりました。厚労省は2017年の通常国会に法律を提出する予定でしたが、葉タバコ農家や飲食店や旅館業の団体からは強い反対があり、自民党内の調整も難航し、未提出となりました。

医者である私の立場から言えば、喫煙は「百害あって一利無し」。嗜好の自由が認められるとしても「他人に迷惑をかけない」限りであるのは当然であり、特に家庭内における子供や配偶者等の受動喫煙は回避可能性が乏しく大きな問題です。東京オリンピックへ向け、強い意思をもって合意形成に頑張りたいと思います。