HOME > トピックス > Topics No.13:わが国のミサイル防衛政策について

2009.07.01

Topics No.13:わが国のミサイル防衛政策について

image_look13

1.はじめに

平成21年4月、北朝鮮は、ミサイル発射を行い、5月には核実験も強行しました。これに対して、国連安全保障理事会は、6月13日未明(日本時間)、北朝鮮に対し、更なる核実験及び弾道ミサイル技術を利用した発射を行わないことを要求し、金融面の措置、制裁委員会の強化などを盛り込んだ内容の決議第1874号を全会一致で採択しました。 北朝鮮によるミサイル発射や核実験が現実の脅威を増すにつれ、我が国においても、ミサイル防衛体制の整備に対する議論が深まってきました。そこで、今回のトピックスでは、国際社会においても、わが国の安全保障の観点からも非常に重要な意味を持つ弾道ミサイル防衛(BMD: Ballistic Missile Defense)について、その政策的側面を中心に考えてみたいと思います。

2.弾道ミサイルと我が国の対応

弾道ミサイルは、重量物を長距離にわたり投射することが可能であり、核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器の運搬手段として使用されうるもので、いったん発射されると弾道軌道を描いて飛翔し、高角度、高速で落下するなどの特徴を有していると説明されています(平成17年度版「防衛白書」)。 このような弾道ミサイルへの対処手段として、我が国は、2003年12月、安全保障会議及び閣議において、正式にBMDシステムを導入することを決定しました。そのシステムは、飛来する弾道ミサイルに対して、イージス艦に搭載された海上配備型迎撃ミサイル(SM-3)と地上配備型迎撃ミサイル(PAC-3)とで、弾道ミサイルの飛翔段階に応じて迎撃するという多層的なシステムとなっています。

3.我が国のBMDについての主要な論点

①技術的な実現可能性、②費用対効果、③集団的自衛権との関係、④武器輸出三原則との関係、⑤宇宙の平和利用との関係が問題とされています。 (1)技術的な実現可能性について 迎撃試験の結果については、米ミサイル庁によれば、SM-3は、現時点で18回中、14回成功しており、迎撃成功率は8割弱となっています。また、PAC-3は、2008年9月に我が国が米国で行った試験で模擬標的の迎撃に成功しています。この試験結果については、標的の発射時間が知らされているケースがあることや連続発射やおとりなどの条件が実戦で想定されるよりも単純であることが指摘されるなど、信頼性に疑問があるという批判もあります。 政府には、このような批判を踏まえた上で、国民の生命・財産を守るため、実現可能性を高めていくことが一層求められます。 (2)費用対効果について BMDの推進に関しては、政府の説明によれば、2004年の導入開始から、維持、整備関連経費、研究開発経費を含めて、総額で約8000億円から1兆円程度を要するとされています。このような多額の費用が投じられることについて、迎撃可能性や周辺国への影響などを考えると費用対効果が低いという見解もあれば、これとは逆にBMDシステムが弾道ミサイル攻撃に有効に対処できる唯一の手段であり、攻撃によって受ける被害の甚大性と攻撃の抑止機能を考えると合理的な政策判断であるとする見解もあります。政府には、限られた財源の中で、配備計画や費用の抑制などの見直しを柔軟に行い、費用対効果を高めていくことが求められます。 (3)集団的自衛権との関係について 米国あるいは米軍を目的として飛来する弾道ミサイルを我が国がBMDシステムで迎撃することは集団的自衛権の行使になるかが問題とされることがあります。従来からの政府見解にあてはめると、集団的自衛権の行使にあたりうることになりますが、最近、憲法の解釈変更等を通じ、一定の条件のもとで集団的自衛権の行使を認めるべきであるという主張もなされています。このような主張の背景には、我が国が米国を目的とした弾道ミサイルを迎撃する能力をもちながらそれを行わないことは、日米同盟を根幹から揺るがすことになるという懸念があります。 もっとも、実際には、米国本土に向かう弾道ミサイルが日本上空を飛翔する可能性は高くないこと、日本のBMDシステムは長距離弾道ミサイルを迎撃する能力を有していないことを考えると、現時点では、集団的自衛権の行使に該当するケースは生じにくいと考えられます。 (4)武器輸出三原則との関係について 1967年、佐藤栄作首相は、①共産国向けの場合、②国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国向けの場合、③国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国向けの場合には、武器を輸出しないという「武器輸出三原則」を表明しました。その後、三木武夫首相は、三原則対象地域以外の地域についても、武器の輸出を慎むとするより厳しい基準を示しました。 一方、日米共同技術研究における米国に対する武器技術の供与については、1983年に、相互交流の一環として米国に武器技術を供与する途を開き、その供与に当たっては、武器輸出三原則によらないこととするという対米武器技術供与取極が締結されました。 この点、BMDについては、その共同研究から共同開発に踏み切った場合、我が国が生産に参画したシステムの一部が他国に輸出されてしまうのではないかという指摘もあります。 政府は、このような懸念を払拭するべく、目的外の使用や第三国への移転について注視を行い、厳正な管理を行うべきです。 (5)宇宙の平和利用との関係について 1969年、衆議院において、「わが国における地球上の大気圏の主要部分を超える宇宙に打ち上げられる物体とその打ち上げ用ロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り行う」という宇宙の平和利用決議がなされました。この場合の「平和」には、「非侵略」にとどまらず「非軍事」を前提とすることも確認されています。 BMDとの関係では、迎撃ミサイルは大気圏外にまで飛翔することが予測され、その場合には、宇宙の平和利用決議に違反しないかが問題となります。 この点について、従来、政府は、BMDシステムが国民の生命・財産を守るための純粋に防御的な、かつ、他に代替手段のない唯一の手段であることを踏まえれば、宇宙の平和利用決議及び平和国家としての基本理念に沿ったものであると説明していました。 もっとも、1969年の段階ではBMDシステムによる迎撃は想定しておらず、この点の議論の整理が求められていたところ、2008年5月に宇宙基本法が成立しました。これにより、宇宙開発利用は、専守防衛の範囲内、すなわち、「非侵略」まで行えることとなり、迎撃ミサイルが大気圏外にまで飛翔しても宇宙の平和的利用の趣旨に反しないこととなりました。

4.おわりに

今回、弾道ミサイル防衛について取り上げた論点は、我が国の安全保障において中心となる問題点や解釈を含むもので今後も十分な議論が行われることが望まれます。また、我が国の安全保障を考えるときは、技術的な防衛策の他にも、周辺諸国との外交や国際的な観点も含め、総合的な政策を推し進めていくことが重要であると考えます。 <我が国のBMDシステムのイメージ図> 我が国のBMDシステムのイメージ図 (出典:防衛省ホームページ)