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2012.03.20

Topics No.21:大阪都構想について

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1.はじめに

平成23年11月27日、橋下徹氏(大阪維新の会代表・前大阪府知事)が大阪市長選挙において、松井一郎氏が大阪府知事選挙においてそれぞれ初当選しました。両氏は、大阪府と政令指定都市である大阪、堺の両市を解体し、大阪の新たな統治機構・システムを構築することを目的とする「大阪都構想」を選挙公約に掲げていました。近年、愛知県と名古屋市による「中京都」構想など、地方から様々な大都市制度の改革案が提起されていますが、大阪都構想は、こうした「地方発」の改革案の中で現在最も注目されているものの一つです。今回は、大阪都構想について考えてみたいと思います。

2.大阪都構想の概要

大阪都構想は、水道事業の統合や高速道路の延伸などをめぐる大阪府と大阪市の対立を背景に、平成22年1月に、府知事であった橋下氏によって提唱されました。大阪都構想の主な目的として、(1)「二元行政の根絶」及び(2)「住民生活をきめ細やかに守る組織体制の整備」を挙げています。 (1)二元行政の根絶 大阪は、中心部に位置する大阪市域に人口や産業が集中していますが、周辺市も含めて都市としての一体性を保ったまま大阪都市圏を構成しています。本来、都市として一体的な経営が求められるにもかかわらず、「市は市域、府は市域外」という「二つの大阪」・「二元行政」の状態となり、都市経営主体の分立が定着し、責任の所在が不明確な無責任体制に陥っています。さらに、大阪市は市域で府県並みの施策や施設整備を行う一方、大阪府は市町村の補完行政や施設整備を大阪市域で行う結果、二重行政の問題も生じています。 (2)住民生活をきめ細やかに守る組織体制の整備 267万人の人口を擁する大阪市の組織では、住民生活をきめ細やかに守るには組織が大き過ぎますが、各行政区の区役所組織は窓口業務が中心で住民生活を守る組織としては不十分です。児童虐待対応、災害時の危機管理、生活道路・施設の整備、福祉施設の整備、福祉サービスの提供、小中学校教育などのあらゆる行政サービスは、現在、全て住民から遠い大阪市役所が仕切っており、各行政区役所では全く対応できていません。住民により近い「特別自治区」がこれら住民サービス全て担えるような組織体制を整備しようとしています。

3.大阪都構想の具体的な内容

大阪都構想の具体的な内容については、以下のように整理することができます(図1参照)。 (1)大阪府域に「大阪都」を創設します。大阪都は、大阪都市圏全域において戦略性が必要な事業(成長戦略、広域防災機能、広域に影響がある都市計画、インフラ整備等)及び統一性が必要な事業(国民健康保険等の運営、消防や警察、道路の管理等)に重点を置きます。 (2)現在24行政区を持つ大阪市と7行政区を持つ堺市を廃し、旧市域におおむね人口30万人から50万人規模の基礎自治体として、特別自治区10~12区を設置します。 (3)特別自治区には公選制の区長と区議会を置くとともに、中核市並みの権限を与えます。 (4)特別自治区間の税収格差問題を解決するために、「大阪都区財政調整制度」を創設します。 (5)特別自治区以外の市町村も原則として中核市に再編しますが、人口30万人の水準を満たさない市町村については、近隣の市町村との広域連携を推進することで中核市並みの権限と財源の移譲を目標とします。
 図1 大阪都構想のイメージ

4.大阪都構想へのハードル

大阪都構想には、(1)府市議会の賛成、(2)国会における関係法律の制定、(3)府市民の住民投票での賛成、の少なくとも3 つのハードルがあると指摘されています。 (1)府市議会の賛成 関係する法律の整備後速やかに新たな大都市制度を実施できるよう、具体的な制度提案を府市で策定し、国に提案することが想定されています。提案に当たっては府市議会のコンセンサスを得ることが必要と考えられています。 (2)国会における関係法律の制定 現行法には大阪都構想を実現するための仕組みが存在しないため、国会において関係する法律を制定する必要があります。制度化に当たっては、大阪独自の制度とするのであれば大阪のみに適用する特別法を制定し、大阪以外にも適用できる一般的な制度とするのであれば地方自治法を改正することになります。地方交付税法、地方税法等の改正も必要とします。 (3)府市民の住民投票での賛成 大阪のみに適用する特別法を制定する場合は、住民投票が必要となります。一方、地方自治法を改正して一般的な制度を設ける場合でも、大都市制度という自らの統治形態を選択する自治の基本構造に関する重要事項であり、住民自らが住民投票により選択していくという手続が必要ではないかと考えられています。なお、大阪府民を対象とした平成24年2月の世論調査では、大阪都構想への賛成が48%、反対が27%でした。

5.大阪都構想の問題点

大阪都構想に対しては、幾つかの問題点や批判が投げかけられています。 (1)地方制度改革の基本原則に反すること 地方制度改革の基本的理念は地方分権であり、具体的方針は権限・財源・事務を住民に近い基礎自治体に置くことにあるとされます。大阪都構想は、これらのものを住民からより遠い団体へ吸い上げるものであり、地方分権に逆行する改革であるとの指摘があります。これに対し維新の会は、広域行政の機能を都庁に一本化する目的は国からの権限移譲の受け皿作りであり、地方分権の流れに沿うものである旨を主張しています。 (2)「二元行政」について 2 つ以上の自治体が行うサービス等が合計で過剰になっている場合は各自治体の政策評価、相互調整等によって対応が可能との指摘があります。大阪における「二元行政」の克服には、まず府市協議を進めることが重要です。 (3)財政問題 大阪市を24 区同士で比べると、人口1 人当たりの税収額は約29倍の開きがあります。住民に占める生活保護受給者の割合は、最も高い区と最低の区で約17倍もの差が生じています。このため、特別自治区の間で財政調整が不十分だと、財政力によって行政サービスの水準に差が出ます。一方、完全に財政格差を解消すれば、取り分が減る裕福な区の反発が考えられます。また、各特別自治区が議会を設け、中核市並みの大型庁舎や各種施設を新設することとなれば、そのコストは相当なものになるだろうとの指摘もあります。

6.おわりに

平成24年2月3日、堺市の竹山修身市長は、「指定市として堺を発展させることが市民の大半の願い」などとして、大阪都構想を推進するための協議会への参加を見送る方針を表明しました。また、主要紙の論調には、地方から自治の在り方を問い直す動きが出て来たことを評価しつつも、大阪都が真に大阪の再生に資するのか、住民の暮らしぶりの向上につながるのか、といった視点の重要性を指摘するものがあります。大阪都構想をめぐる動向は、我が国の大都市制度の今後の在り方を考える上での一つの里程標になると思われます。
※国立国会図書館 ISSUE BRIEF第740号を参考にしました。