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2012.04.06

Topics No.22:幼保一体化をめぐる議論

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[1]はじめに

義務教育就学前の子どもの集団での育ちの場は、親の就業の有無により幼稚園と保育所に二分されています。幼稚園と保育所の統合については、過去にも数度にわたり大きな議論がありましたが、制度の抜本的な改編には至らないままに終わっています。平成24年3月現在、就学前の子どもに教育と保育を一体的に提供する「総合こども園」(仮称)の創設が議論されています。今回は、就学前施設の現況と課題について考えてみたいと思います。

[2]幼稚園と保育所の現況

現在就学前の児童はほぼ半々の割合で、保育所あるいは幼稚園で集団生活を送っています。幼稚園と保育所は、就学前の子どもを預かる施設という点では共通しますが、表1のとおり施設の位置づけ、根拠法等に基本的な違いがあります。  
表1 幼稚園と保育所の比較
幼稚園 保育所
施設の位置付け 学校 児童福祉施設
根拠法 学校教育法 児童福祉法
所管府省 文部科学省 厚生労働省
対象とする子 満3 歳~就学前の児童 0歳~就学前の保育に欠ける児童
教育・保育時間 4時間を標準 8時間を原則
教育・保育内容 幼稚園教育要領に基づく 保育所保育指針に基づく
教諭・保育士の資格 幼稚園教諭免許状 保育士(国家資格)
教諭・保育士の配置基準 1学級35 人以下 児童と保育士の割合 0 歳児: 3:1 1・2 歳児: 6:1 3 歳児: 20:1 4・5 歳児:30:1
しかし、幼稚園と保育所の実質的な教育・保育の内容は、カリキュラム、教育・保育時間共に違いが小さくなってきています。カリキュラムについては、平成20 年に幼稚園教育要領と保育所保育指針の内容が大幅に共有化されました。これにより個別の教育・保育内容の違いは幼保の差というより、各施設の方針によるところが大きいとされています。教育・保育時間面では、預かり保育を行う幼稚園が増加し、ここでも幼保の差は縮まっています。働く女性の増加に伴い、都市部を中心に保育所への入所待ちをする待機児童の増加が問題となる一方、少子化の影響で児童数が減少し、運営が困難になる幼稚園もあり、待機児童解消と施設の統合による合理化の必要性が指摘されています。

[3]幼稚園と保育所の統合に関するこれまでの議論

幼稚園と保育所の一元化に関する議論は戦前から数度にわたる大きな議論がありました。幼稚園と保育所の統合が形になったものとしては、自民党・公明党の連立政権下の認定こども園があります。認定こども園制度は、就学前の子どもの教育・保育、保護者に対する子育て支援を総合的に提供することを目的として、平成18年10月にスタートしました。認定こども園には母体となる施設によって、表2のとおり4つの類型があり、認定件数としては、「幼保連携型」が半数以上を占めています。認定こども園の認定は、原則として都道府県知事が行います。職員配置や職員資格、施設設備等については、幼稚園設置基準と児童福祉施設最低基準の両方を満たすことを基本とした国の示す指針を参考に、都道府県が条例で定めますが、地域の実情に応じた柔軟な基準設定が可能とされています。  
表2 認定こども園の類型と認定件数(平成23年4月1日現在)
幼保連携型(406 件) 認可幼稚園と認可保育所とが連携して、一体的な運営を行うタイプ
幼稚園型(225 件) 認可幼稚園が、保育に欠ける子どものための保育時間を確保するなど、保育所的な機能を備えるタイプ
保育所型(100 件) 認可保育所が、保育に欠ける子ども以外の子どもも受け入れるなど、幼稚園的な機能を備えるタイプ
地方裁量型(31 件) 幼稚園・保育所いずれの認可もない地域の教育・保育施設が、認定こども園となるタイプ
親の就労の有無にかかわらず利用可能であり、保育時間を柔軟に選べる認定こども園は一定の評価を得たとされていますが、既存施設が認定こども園に移行するための財政支援等が不十分であること、文部科学省と厚生労働省の共同所管で、会計処理や認定手続等の事務手続が煩雑であること等により、平成23年4月現在で全国762か所にとどまっています。

[4]「総合こども園」(仮称)の創設

平成24年3月、少子化社会対策会議が、「子ども・子育て新システムに関する基本制度」(以下「基本制度」とする。)及び「子ども・子育て新システム法案骨子」を決定し、学校教育・保育及び家庭における養育支援を一体的に提供する施設として「総合こども園」(仮称)(表3)の創設を提唱しました。開設時期は、財源確保のため平成27年度に想定される消費税の10%への引上げの時期を踏まえて、地方公共団体の準備期間等も考慮して検討するとされました。  
表3 「総合こども園」(仮称)の概要
法的位置付け 学校、児童福祉施設及び第二種社会福祉事業として位置づける。
所管府省 内閣府が所管する。但し、学校と児童福祉施設としての性格を併せ持つため、文部科学省、厚生労働省と事務の内容に応じて調整を図る。
実施する 教育・保育 全ての満3 歳以上児に標準的な教育時間の学校教育を保障する。保育を必要とする子どもには、学校教育に加え、保護者の就労時間に応じて保育を保障する。保育を必要とする満3 歳未満児については、保護者の就労時間等に応じて保育を保障する。満3 歳未満児の受入れは義務付けない。
カリキュラム 指導・援助の要領として、新たに定める「こども指針」(仮称)を踏まえた「総合こども園保育要領(仮称)」を定める。
設置主体 国、地方公共団体、学校法人、社会福祉法人、一定の要件を満たした株式会社・NPO等の法人
設置基準 現行の幼保連携型認定こども園の基準を基礎とする。
職員 園長、保育教諭(仮称)、学校医、学校歯科医、学校薬剤師、調理員を必置とする。保育教諭(仮称)は幼稚園教諭の免許状と保育士資格を併有することを原則とする。
現行の保育所は、制度の本格施行から3年以内に「総合こども園」(仮称)に移行させることとなりました。幼稚園には「総合こども園」(仮称)に必要な調理室の設置費等を補助するとされましたが、移行期間は設けられていません。認定こども園については、制度自体は廃止し、現行の認定こども園のうち「総合こども園」(仮称)の基準を満たすものについては円滑に移行できるよう対処し、現在は基準を満たさないものについては必要な支援策を検討することとされました。

[4]「総合こども園」(仮称)の課題

総合こども園については、教育・保育の質の向上、待機児童対策としての量的拡大の実現性等について様々な課題が指摘されています。 1 教育・保育の質の向上 総合こども園に置かれる「保育教諭」(仮称)の研修については、常勤・非常勤を問わず全員が研修を受けるようにすべきと指摘されています。就学前教育と小学校教育との連携・接続については、就学前施設と小学校の各々における学習の連続性を考慮した教育を進めていくことを前提とし、「保育教諭」(仮称)の養成カリキュラムにもそれを反映させる必要があるとする意見がある一方、小学校教育との連携を重視すると、乳幼児期の教育や保育に就学準備としての成果や効率が要求されると危惧する意見等もあります。また、カリキュラムの実現度合い、職員の勤続経験年数、職員研修の内容、施設の自己評価の内容等、教育・保育の質に直結する情報を開示し、自己評価や第三者評価による質の向上を保障できる仕組みを取り入れる必要があるとの提案もあります。 2 待機児童対策としての量的拡大 幼保一体化の目的の一つには、少子化等により定員割れが生じている幼稚園と、待機児童を抱える保育所を一体化することにより、待機児童を解消することがありました。しかし、幼稚園に対しては「総合こども園」(仮称)への移行が義務付けられず、幼稚園のまま存続する選択肢があり、幼稚園が「総合こども園」(仮称)にどの程度移行するか不透明です。企業の参入を促し、保育の受け皿自体を拡大する方策も打ち出されていますが、人件費や給食の材料費等、保育の質に関わる部分の経費が抑制されないか懸念する声があります。また、新制度では全ての年齢の子どもを受け入れる「総合こども園」(仮称)、3歳以上の子どものみを受け入れる「総合こども園」(仮称)、乳児専門の保育所、現行のまま存続する幼稚園と、就学前施設が多様化し、保護者に仕組みが分かりにくいとの指摘があります。

[5]おわりに

新しい枠組みに関する問題点は多々指摘されていますが、現行システムが時代の要請に合わないことも現実問題として存在します。諸外国では幼児教育と保育の改革を着々と進めており、我が国の就学前施設についても、変革期が到来していると言えます。今回の幼保一体化に向けての改革が、待機児童対策、様々なサービスの提供による保護者の利便性の向上、規制緩和によるビジネス機会の拡大といった、「大人」の都合にとどまらず、次世代を担う子ども達により良い環境を提供する契機となるよう、十分な議論を尽くすことが必要です。
※国立国会図書館 ISSUE BRIEF第745号を参考にしました。