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2014.08.01

Topics No.25: 農産物輸出の現状と課題

[Ⅰ]農産物輸出の現状

 農産物や食料品の国内市場は、少子高齢化などを背景に減少傾向が続いている一方で、世界の食市場は新興国の経済発展を背景に急成長しており、日本を除く世界の食市場の規模は平成21年の340兆円から、平成32年には680兆円に達すると見込まれています。 我が国の平成24年の農林水産物の輸出額は4,497億円で、地域別の割合は、アジア72.8%、北米16.5%、欧州5.9%で、アジア地域が多くなっています。国別では、香港21.9%、米国15.3%、台湾13.6%、中国9.0%、韓国7.8%となっています(表1)。 農林水産物の輸出額の割合は、農産物59.6%、林産物2.6%、水産物37.8%で、農産物の輸出総額2,680億円の内訳では、加工食品1,305億円、畜産品295億円、穀物等196億円、野菜・果実等133億円などとなっています。加工食品の割合が大きいのは、流通がしやすく、生鮮食品と比べて輸入国の検疫を通りやすい等の理由からです。

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 我が国の農林水産物の輸出額は、平成12年頃から増加傾向にありましたが、平成20年のリーマンショックによる世界的な経済不況に加えて、円高や原発事故等の影響により、近年は5,000億円前後で伸び悩んでいます。 農林水産物の輸出拡大に向けては様々な方策がとられていますが、動植物検疫への対応や、現地でのマーケティングなど、依然多くの課題を抱えています。また、中国や韓国の廉価な農産物が輸出市場に大量に出回り、日本産の農産物が価格競争で劣勢に立たされています。

[Ⅱ]輸出拡大政策

  政府は、①世界の料理界での日本食材の活用推進(Made FROM Japan)、②日本の「食文化・食産業」の海外展開(Made BY Japan)、③日本の農林水産物・食品の輸出(Made IN Japan)という3方向の取組(頭文字をとり「FBI戦略」と呼ばれています。)を一体的に進めることで、平成32年までに輸出額1兆円を目指しています。また、農林水産物や食品の輸出促進については、①相手国が求める認証や基準への対応など輸出環境の整備(ENTER)、②商流の確立支援(ESTABLISH)、③商流の拡大支援(EXPAND)という3施策(頭文字をとり「3Es」と呼ばれています。)を集中的に実施することとしています。 具体的な戦略として、政府が重点的に支援を行う農林水産物8品目について、現状の分析や輸出拡大策が公表されています(表2)。

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[Ⅲ]輸出拡大における課題

(1)福島第一原発事故の影響

 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故の影響で、多くの国や地域で、我が国からの農水産物の輸入規制が行われ、平成25年12月時点で、41の国・地域で規制が続いています。これに対し、政府は、日本から食品を輸出する際に各国が求める産地や放射性物質の検査結果等の証明書を、国が一元的に発行できる体制をとるなどの対応を進めています。

(2)安全・品質管理体制の遅れ

  HACCP※1やISO規格※2、GLOBAL G.A.P.※3への対応、食品トレーサビリティの整備など、海外で通用する安全・品質管理の体制整備が、農産物や食品の輸出拡大には不可欠ですが、我が国においては十分に進んでいません。
※1 危害をあらかじめ分析(Hazard Analysis)し、その結果に基づいて重要管理点(Critical Control Point)を定め、これを連続的に監視することにより製品の安全を確保する衛生管理手法
※2 国際標準化機構(International Organization for Standardization)が定める国際規格
※3 欧州小売業組合が定める適正農業規範(Good Agricultural Practices)

(3)産地間の足並みの乱れ

 各都道府県が、それぞれ農産物の輸出に力をいれていますが、足並みが揃わず、海外市場でも産地別の競争がなされてしまうなどの問題があります。限られた産地からでは安定的な供給が難しく、少量ずつの輸送はコスト上昇の原因となるため、日本ブランドを統一する必要があります。

(4)円相場の影響

 農産物の輸出にとって、円相場の与える影響は大きく、日本貿易振興機構のアンケート調査では、約8割の食品事業者が円高でマイナスの影響を受けると回答しています。

[Ⅳ]輸出拡大への方策

(1)相手国の特性の把握

  海外と国内では求められるものが異なる場合があるため、余剰農産物を輸出に回すのではなく、輸出先のニーズをとらえ、それに合わせた商品を輸出することが必要です。 また、高級な農産物を輸出する動きに対しては、相手国の景気に左右されやすいことや市場規模が限られているというリスクも指摘され、輸出額拡大のためには、いかに一般の消費者をターゲットに出来るかが問われています。 このほか、輸出相手国の検疫体制等を把握することも重要です。

(2)成功事例に学ぶ~オランダやデンマークをモデルに~

 欧州では、オランダやデンマークといった国土面積の小さい国が、世界市場をターゲットに農産物の輸出国として成功しています。 オランダは、米国に次ぐ世界第2位の農産物輸出国ですが、花きや野菜などのハウス栽培や植物工場での生産など施設型の農業に特化し、IT技術などによる生産管理や、流通の効率化を進めることで輸出の競争力を高めています。 デンマークは国土面積が九州とほぼ同じでありながら、平坦な農地を生かした大規模な農業が営まれており、畜産と食品製造業との連携により、チーズやベーコン、ハムなどの輸出も多くなっています。 これらの国に共通するのは、付加価値の高い加工食品貿易が盛んな点ですが、我が国がこれらの国をモデルにする場合、課題もあります。オランダは、輸出先の8割以上がEU圏内で、輸出に対する障壁が低くなっています。また、デンマークのような規模のメリットを活かす農業を日本が目指す場合、農地の集約等のさらなる推進が必要となります。

(3)TPPの活用

 輸出型の農業国を目指すには、TPP(環太平洋経済連携協定)を活用し、輸出の拡大を目指すべきであるとの主張がある一方で、TPP交渉参加国への輸出額は全体の4分の1程度にとどまっており、農産物の有望な輸出先である中国が交渉に参加していないことから、TPPと輸出拡大の関係は薄いのではないかという指摘もあります。

(4)6次産業化の推進

 加工食品の輸出額を大幅に増やすためには、農林水産業と2次産業、3次産業を結びつける、いわゆる6次産業化の推進が不可欠です。また、コメの輸出拡大のためには、これと整合性あるコメ政策が必要です。