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2015.08.21

Topics No.27: 認知症について

〇認知症とは

認知症とは、正常だった認知機能が、後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことをいいます。原因や症状によっていくつかの種類がありますが、特にアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つが全認知症のほとんどを占め、4大認知症と呼ばれています。

 

〇認知症の有病者数

平成24年時点で、全国で約462万人、65歳以上の約7人に1人が認知症であると推定されています。認知症は加齢にともなって増加していくので、高齢化が進む我が国では認知症の人は今後さらに増加していきます。いわゆる団塊の世代が75歳となる平成37年(2025年)には約700万人前後(65歳以上の約5人に1人)が認知症になると予測されています。

図1 認知症の有病率

表1 将来人口・認知症有病者数推計

認知機能の低下があるものの、認知症の診断基準を満たすほど症状があらわれていない状態を「軽度認知障害」と言います。平成24年時点で、認知症有病者の462万人の他に、軽度認知障害の症状を持つ人が約400万人いると推計されており、このことから、「65歳以上の約3割が認知症または認知症予備軍」と言われています。しかし、軽度認知障害の症状がある人が全員認知症になるわけではありません。認知症の根本的な治療方法が見つかっていない現状では、軽度認知障害を早期に発見し、生活習慣の改善やリハビリなどを行うことによって認知症に移行しないよう予防することが非常に重要です。

 

〇認知症の症状

脳の神経細胞が壊れることによって直接起こる記憶障害や判断力の低下などは認知症の中核症状と呼ばれます。認知症の記憶障害がいわゆる物忘れと違う点は、忘れていたことを指摘されても思い出すことができないことです。例えば、会う約束をしていたのにうっかり忘れてしまい連絡があって思い出すということは健康な人でもありますが、認知症患者では約束したことそのものを忘れてしまうのです。

本人がもともと持っている性格や環境などの様々な要因が絡まって起こる徘徊や妄想、うつなどの症状は認知症の行動・心理症状と呼ばれます。これらの症状は日常生活への適応を困難にし、家族にとって大きな負担となります。

 

〇4大認知症

1.アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症はすべての認知症の中で最も多く見られ、約60%を占めています。

アルツハイマー型認知症はベータアミロイドやタウと呼ばれるタンパク質が蓄積することにより、正常な神経細胞が障害され、脳の働きが低下することが原因であると考えられています。症状としては、記憶障害や判断能力の低下が発症の初期から見られます。病気の進行に連れて、徘徊や被害妄想といった日常生活に大きな支障をきたす行動・心理症状が強くなっていきます。

現在のところ、アルツハイマー型認知症の治療薬として認可されている薬は4種類あります。これらは根本的に原因を取り除く薬ではありませんが、記憶障害等の中核症状の緩和に効果があるとされています。アルツハイマー型認知症は早期に発見し、薬の服用やリハビリテーションを適切に行うことで症状の進行を遅らせることができます。

 

2.レビー小体型認知症

レビー小体型認知症とは、脳にレビー小体と呼ばれるタンパク質が蓄積し、神経細胞を傷害することによっておこる認知症です。

レビー小体型認知症では、その初期において記憶障害よりも幻覚や妄想、うつといった精神症状が目立ちます。また、手足が震える、バランスが悪く転倒しやすくなるなどのパーキンソン病に似た症状が見られます。

最近、ドネペジルという薬がレビー小体型認知症に有効な治療薬として認可されました。これは他の認知症治療薬と同様、根本的な治療薬ではありませんが、症状の緩和に効果があるとされています。幻覚やうつ、転倒しやすいなどの症状は、ケアをする家族にとって心理的・肉体的に大きな負担となります。決して抱え込まず、専門家にケアの方法を相談し、支援を求めることが大切です。

 

3.前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は脳の前頭葉や側頭葉の萎縮が特徴的な認知症で、比較的若年で多く見られます。

前頭葉は脳の最高中枢と言われ、状況を考えて行動したり、理性的な行動を行わせる機能などを司っています。また、側頭葉は言葉を理解したり、感情の形成に関わっています。これらの部位の萎縮によって起こる前頭側頭型認知症では、反社会的な行動をとってしまう、同じ行動を繰り返す、意欲を失い自発的な行動をしなくなるなどの症状が問題となります。初期には記憶障害が目立たないことが多いため、認知症としての対応が遅れてしまいがちです。

前頭側頭型認知症では、万引きや暴力などの反社会的行為を繰り返し行ってしまうことが多いうえ、それを本人が悪いことと認識できない場合が多くあります。ケアを行う家族にとっては大きな負担となります。早い段階で専門医の診察を受け、適切な対応をアドバイスしてもらうとともに、周囲への理解や支援を求める等、ケアをする側の負担を軽減することがとても重要です。現在のところ、前頭側頭型認知症の根本治療薬はありませんが、アルツハイマー型認知症治療薬や抗うつ薬等によって、各症状が緩和される場合があります。

 

4.血管性認知症

血管性認知症とは脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因となって、神経細胞が傷害を受けることにより起こる認知症です。

症状は脳血管障害が起こった部位によって様々です。記憶障害があるのに判断力の低下があまり見られないといったことがよくあり、このような場合はまだら認知症と呼ばれます。また、症状の変動が激しいという特徴があり、さっきまでできていたことが突然できなくなるといったことがあります。脳梗塞などは再発することが多く、それによって症状が急激に悪化することがあります。また、脳血管障害は命に関わる病気ですので、定期的に検査を受けること、違和感があったらすぐに医師にかかることが大切です。高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は脳血管障害のリスクを高めるので、日々の生活習慣に気をつけることが予防につながります。

 

〇認知症の予防

糖尿病や喫煙、中年期の高血圧の人は、アルツハイマー型認知症になりやすいとされています。また、これらの人は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を起こす危険が高く、すなわち血管性認知症になりやすいと言えます。適切な食事や適度な運動を行うことなどによって、日頃から健康に気をつけることが大切です。また、社会参加や余暇活動によってもたらされる豊かな生活環境は認知症の予防に効果があるとされています。認知症予防にあたっては、日々の生活習慣を総合的に見直していくことが必要であると言えます。

 

〇認知症の治療・ケア

かつての認知症ケアは介護者を中心として考えられ、時として認知症患者の人格への配慮を疎かにしていました。しかし、現在では、認知症にかかり意思の疎通が難しくなった患者も、一人の人として尊重されなければならない、という理念のもとケアが行われています。これをパーソンセンタードケア(person-centered care)と呼びます。

認知症の治療は薬物療法とリハビリテーションが主体です。残念ながら現状では、認知症を根本的に治療する方法は見つかっていません。しかし、適切な治療やケアによって、症状を緩和させたり、進行を遅くすることができます。アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症については、その中核症状の緩和に有効であると認められた薬があります。また、妄想やうつなどの行動・心理症状に対しては、それぞれの症状に応じて向精神薬や抗うつ薬等が使われます。

 

〇治療法・予防法の研究

現在の認知症治療は症状の緩和を目的としていますが、より根本的に認知症を治療する研究も進められています。アルツハイマー型認知症ではベータアミロイドやタウと呼ばれるタンパク質、レビー小体型認知症ではα-シヌクレインというタンパク質の蓄積が原因であると考えられており、それらをターゲットとした根本治療薬の研究が行われています。また、ダメージを受けた神経細胞を回復させる再生医療の研究もさかんに行われています。

認知症はそのメカニズムがまだ明らかでないことが多く、その解明の為の基礎的な研究も必要です。認知症患者由来のiPS細胞から神経細胞を作り、認知症の病態を解明したり、治療薬の研究を行う試みも進められています。

若い頃からの生活習慣が老年期の認知症発症に影響していると考えられていますが、具体的に何が認知症発症の危険因子となるかは必ずしも明らかとなっていません。その解明の為には長期的な調査を行う必要があり、現在、特定集団を長期にわたって追跡調査する大規模なコホート研究が行われています。これにより危険因子が詳細に明らかとなっていけば、より効果的な予防方法が見つかっていくと思われます。

 

〇認知症対策の課題

・行方不明者

認知症になると家の内外を歩き回るといった行動が見られ、これは徘徊と呼ばれます。

家の外で徘徊が見られると、行方不明になりかねません。実際、平成26年に認知症が原因で行方不明となった人は全国で1万783人(前年比461人増)にのぼります。このうち168人は同年中に所在が確認されませんでした。認知症による行方不明者の増加を受けて、平成26年6月に警察庁は、行方不明者の身元確認や自治体との連携強化を都道府県警に求めました。また、厚生労働省は行方のわからない高齢者の情報を公開するなどの対策を行っています。

 

・虐待

厚生労働省は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法)に基づいて、高齢者に対する虐待に関する調査を行っています。平成25年度の調査では、養介護施設従業者等からの虐待が221件(前年比66件増)、養護者(家族、親族、同居人等)からの虐待が15,731件(前年比529件増)という結果でした。また、同調査から虐待を受けている人の8割以上が「認知症高齢者の日常生活自立度」がⅡ以上(認知症が進行している)であることも明らかとなりました。認知症の介護は介護者への負担が大きく、疲労・心労がややもすれば虐待へとつながりかねません。認知症の介護にあたっては、ひとりで抱え込まず、周囲へ理解や支援を求め、利用可能な行政サービスを知ることが大切です。厚生労働省は認知症介護で困ったときは早めに、各地域にある地域包括支援センターに相談することを勧めています。

 

・消費者トラブル

認知症等の理由によって判断能力が不十分な状態になっている高齢者の消費者トラブルはここ数年増加傾向にあり、平成25年度にははじめて1万件を超えました。認知症の高齢者はトラブルや被害にあいやすいうえ、トラブル等にあっているという認識が低い場合が多く、特に一人暮らしの認知症の高齢者では問題が潜在化してしまう場合が多いのです。このようなトラブルを予防するために、成年後見制度を利用することは有効であると考えられます。

成年後見制度とは、認知症等によって物事を判断する能力が十分ではない人について、その権利を守る援助者を選ぶことで法律的に支援する制度です。家庭裁判所によって選ばれた成年後見人(通常は本人の親族や法律・福祉の専門家が選ばれます)が、本人の利益を考えながら、代理して契約を行ったり財産の管理を行います。成年後見制度は認知症の高齢者の権利を守る為に有効な制度ですが、平成25年12月時点で利用者は約17万6千人に留まっています。周知が不十分である点や、手続きが煩雑でなおかつ時間がかかるという点が、本制度の利用を敬遠する大きな理由となっていると考えられます。今後、認知症の高齢者の更なる増加にともなって、成年後見制度はますます重要となっていくので、必要とする人が利用しやすい制度となるよう対策が求められています。

 

〇認知症への国の取組

世界に類を見ない速度で高齢化が進む我が国においては、認知症は国をあげて取り組むべき極めて重要な課題です。現在我が国は、いわゆる団塊の世代が75歳となる2025年を見据えて策定された、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」に基づき、認知症対策を行っています。新オレンジプランは、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を基本理念としており、その具体的な施策は認知症の人やその家族の視点に立ってつくられています。

 

新オレンジプランの7つの柱

①認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進

②認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供

③若年性認知症施策の強化

④認知症の人の介護者への支援

⑤認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進

⑥認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進

⑦認知症の人やその家族の視点の重視

 

表2 新オレンジプランの概要

 

世界的に高齢化が進む中で、そのスピードが最も速い我が国の取組を世界が注目しています。我が国の先進的な取組は国際的な財産となり、各国の認知症対策に役立てられるでしょう。

認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会は、家族や医療・介護施設、行政機関の努力だけで実現できるものではありません。社会全体で認知症の人やその家族を支えていくという意識の醸成、体制整備が必要です。認知症の人にやさしい社会は、決して認知症の人にだけやさしい社会ではありません。すべての人にやさしく、暮らしやすい社会となるはずです。




参考文献

中島健二ら 認知症ハンドブック 医学書院

日本神経学会 認知症疾患治療ガイドライン2010 医学書院

厚生労働省 認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)

国立国会図書館 調査と情報-ISSUE BRIEF- No.846 認知症の現状と課題

厚生労働省 平成25年度 高齢者虐待対応状況調査結果

警察庁 平成26年中における行方不明者の状況