法曹養成の在り方に関する公開討論会が行なわれ、中心的討議者の一人として、意見を闘わせました。
司法改革は、「より身近で、速くて、頼りがいのある司法」を目的としており、そのためには、幅広い専門的知識や柔軟な思考力とともに、豊かな人間性や説得・交渉能力を備えた、質の高い法曹を養成していく必要があります。ところが、現在、「平成22(2010)年ころには新司法試験の合格者数を年間3,000人とすることを目指す」という方針のために、従来の司法試験では合格できなかったレベルの受験者が合格することとなり、司法試験合格者の資質に格差が広がっています。多数の司法試験委員(採点者)が「合格者の専門的知識や思考力のレベルが低下した」と評価している上、司法研修所での修習の総仕上げである試験(いわゆる二回試験)に合格できなかった者も、従来は毎年数人以下でありましたが、100人を超える状況となっています。
さらに、法曹に必要な資質は司法研修を終了するだけで獲得できるものでは到底あり得ません。医学部を出たばかりの新米医師が、一人前に患者さんを診られないのと同じことです。独立して業務を行えるようになるためには、最低数年間は先輩弁護士について実務経験を積み、その過程で研鑽していくことが必要になります。しかし、現在は、受け皿となる法律事務所も法曹資格者の増加に対応することができず、このような実務を通じての基礎教育の場を提供することが非常に困難な状況となっています。「司法過疎」と呼ばれてきた地方においても気軽に弁護士に相談できる体制を整備することは重要なことですが、基礎的な実務トレーニンを欠いた弁護士では、本来であれば依頼人に認められるべきである権利を確保できなかったり、十分な紛争解決を行うことができなかったりして、依頼人に損害を与えるおそれがあります。
この様な状況では、多様化・高度化する法曹に対する需要に応えられないのは明らかで、単に合格者数を増加させるという現行方針は、「より身近で、速くて、頼りがいのある司法」という司法改革の趣旨に全く合わないどころか、国民の権利を損ない、司法に対する信頼を崩壊させかねない危機的状況を作り出しています。資質を備えた法曹を着実に養成していくことこそ政府の責任であり、法曹人口を増加させていく前提として、まず、その基盤を早急に整備すべきなのです。
しかし、政府は、未だ既定の方針にこだわって、法曹の塑造・乱造方針を改めようとはしていません。既定路線の擁護派は「法曹を増やすことによって、日本社会に法治精神が定着する」と主張していまが、それでは「医者を増やすことによって、病人を作る」というのと同じで、本末転倒です。訴訟社会と言われる米国では、紛争処理のために多くの社会的コストが生じ、最終的には消費者の物価を押し上げる結果となっています。被害者が泣き寝入りするような状況に対策を講じることと、法曹人口を増やすことは無関係です。司法制度の在り方は、他国の真似をするのではなく、話し合い解決を重視してきた日本社会の特性を活かして構築していくべきです。
以上の意見は、私だけでなく、多数の若手議員を中心とする100人近くの議院の一致した意見で、既定路線を擁護する議員と意見を闘わせています。既定路線派には、法科大学院に関する利権があるのではないかとの憶測も漏れ聞きます。私は、法曹としての、また法科大学院の教員としての信念に基づき、真に「より身近で、速くて、頼りがいのある司法」を実現するために、頑張っていきたいと思います。